付加価値労働生産性を「現場改善の話」で終わらせないために
製造業、とりわけ部品加工メーカーにおいて「生産性」という言葉は、しばしば
- もっと早く加工する
- ムダを減らす
- 人手を減らす・自動化する
しかし、マネジャーや管理職候補者が向き合うべき生産性は、それだけでは不十分です。 本記事では付加価値労働生産性を軸に、個人やチームの「悩み」を、成果につながる 「考える課題」へ変換するための思考フレームを整理します。
1. 付加価値労働生産性とは何か(定義)
付加価値労働生産性は、次のように表されます。
付加価値労働生産性 = 付加価値 ÷ 労働投入量
用語補足
- 付加価値(分子):売上から外部購入費(材料費・外注費など)を差し引いた、自社が生み出した価値
- 労働投入量(分母):人数、労働時間、人時などで測られる投入リソース
重要なのは、生産性は「分母(現場)」と「分子(経営・営業)」の両方で決まるという事実です。
2. なぜ「効率改善」だけでは生産性が上がらないのか
現場改善を徹底しても、次のような状況に心当たりはないでしょうか。
- 現場は忙しく改善も進んでいるのに、利益が残らない
- 工程は洗練されたが、価格競争から抜け出せない
- 「頑張っているのに評価されない」という不満が出る
これは、分母だけを最適化し、分子を問い直していない状態です。
ピーター・ドラッカーは、「効率とは、正しく行うこと。成果とは、正しいことを行うことだ」 という趣旨の指摘をしています。
どれほど効率よく仕事をしても、そもそも取るべきでない仕事であれば、 成果(=付加価値)は生まれません。
3. 分子と分母の「健全な役割分担」
基本構造
| 領域 | 主な責任 | 担い手 |
|---|---|---|
| 分子(付加価値) | 価格・顧客・案件の質・売り方 | 経営層・上位マネジャー |
| 分母(労働) | 工数・段取り・再現性・改善 | 現場・製造マネジャー |
この分担は、責任の所在という観点から見て非常に合理的です。
- 現場は価格を決められない
- 現場は仕事を選べない
- 市場情報や顧客戦略は上位役職が持つ
したがって、現場に分子の責任を直接負わせるのは誤りです。
4. 失敗する分業、成功する分業
よくある失敗パターン
- 経営:「高付加価値な仕事を取れ」
- 現場:「工数が読めず、負担が増える」
または、
- 現場:「改善した」
- 経営:「それでも儲からない」
原因は明確です。分子と分母が別々の物差しで最適化されているからです。
5. 両者をつなぐ「共通言語」を持つ
成功している組織に共通するのは、分子と分母をつなぐ共通指標を持っていることです。
代表的な共通指標
- 1人1時間あたり付加価値
- 案件別:予定工数 vs 実績工数
- 案件別:時間単価(売価 ÷ 工数)
これにより、会話が次のように変わります。
- 経営:「この案件は時間単価が低い。取らない判断をしよう」
- 現場:「この案件は工数を〇%下げられる余地がある」
誰が悪いかではなく、何を判断するかの議論に変わるのです。
6. マネジャーが持つべき問い
若手〜中堅マネジャー、管理職候補者に求められるのは、答えではなく問いの質です。
分母に対する問い(現場向け)
- この仕事は何時間かかるのか
- 標準と比べてどこが違うのか
- 再現性はあるのか
分子に対する問い(上位役職として)
- その時間を、いくらで売っているのか
- 他の仕事に使う選択肢はないのか
- この仕事は目的に合っているのか
ドラッカーが強調した「貢献への問い」は、まさにここにあります。
7. 生産性とは「努力」ではなく「意思決定」である
付加価値労働生産性を高めるとは、
- 現場を追い込むことでも
- 精神論で頑張らせることでも
ありません。
それは、限られた時間を、どの価値に使うかを決める意思決定です。
マネジャーの役割は、
- 分子と分母を切り分けて考えること
- 責任の所在を曖昧にしないこと
- 成果につながる問いを持ち続けること
生産性は現場の問題ではありません。
マネジメントの質が、そのまま数値として表れた結果なのです。
コメント